2015年5月21日木曜日

アメリカ軍によるアジア太平洋戦略 ~沖縄普天間基地移設と新海洋戦略~

海兵隊の辺野古移設で抑止力は強化されるのか?

軍事的には海兵隊は弱体化、問題は「抑止力」の中身

  北村   2015.5.7(木)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43704

日米首脳会談を終えて安部総理とオバマ大統領は「日米同盟の抑止力が一層強化されるであろう」と評価した。
 この会談において、安倍首相は、沖縄の普天間海兵隊航空基地の移設問題にも言及し、「“抑止力を維持する”ために、危険極まりない普天間航空基地から危険性が低くなる辺野古の新設航空基地に海兵隊(アメリカ海兵隊「第3海兵遠征軍」主力)を移転させる」という論理に立脚して、不退転の姿勢でもって辺野古航空基地の建設作業を推し進めることを約束した。
辺野古移設で実際的な抑止力は低下する

 果たして日本政府が主張するように、辺野古航空基地に海兵隊が移転することは「抑止力が維持される」ことになるのであろうか?
日本側が期待している在日アメリカ海兵隊の戦闘能力という純軍事的な側面のみに焦点を絞るならば、「抑止力は低下する」ことになる。
 普天間航空基地には、「第1海兵航空団」のうち回転翼飛行部隊、つまりオスプレイ部隊と輸送ヘリコプター部隊が配備されている。

1海兵航空団の一部門であり長年にわたって普天間を本拠地にしてきた「給油輸送航空隊」(大型輸送機、空中給油機を使用する部隊)は、2014年夏に岩国航空基地に移駐した。その岩国航空基地には、やはり第1海兵航空団の一部である「戦闘攻撃飛行隊」(戦闘機や電子戦機を使用する部隊)が配備されている。
 本来は、第1海兵航空団のヘリコプター部隊、オスプレイ部隊、戦闘機部隊、給油輸送機部隊などは、1カ所(あるいは近接エリア)に集中して配備されていることが望ましい。しかし以前より、戦闘機部隊だけは岩国基地に切り離されて配備されるという変則的状態が続いていた。それが、近い将来の辺野古移転に備えるとともに、普天間基地反対勢力の海兵隊に対する反感を少しでも和らげるために、給油航空隊も普天間から岩国に移転したのである。その結果、第1海兵航空団の回転翼飛行部隊は普天間に、固定翼飛行部隊は岩国に、とおよそ1000キロメートル隔てた遠隔地に分散配備されることになってしまった。
ただし、海兵隊はいまだに2700メートル滑走路のある普天間航空基地を使用しているため、岩国を拠点にしている海兵隊戦闘機や大型輸送機などの固定翼機は、アメリカ空軍などとの調整なしに沖縄に飛来することができる。しかしながら、1500メートル滑走路の辺野古基地では、戦闘機はもちろん大型固定翼機を運用することはできなくなる(海兵隊給油輸送機は1500メートル滑走路ならばギリギリの状態で離着陸は可能であるが、万一の事態には全く余裕がなくなってしまう。そのため、平時においては、それも沖縄では、1500メートル滑走路での大型機の運用は論外、ということである)。
 したがって、海兵隊の辺野古移設後は、第1海兵航空団は完全に回転翼機部門と固定翼機部門が大きく分断されてしまうことになる。このように第1海兵航空団が分散配置(それも1000キロメートルもの遠隔分離)されることにより、第3海兵遠征軍の作戦能力は大幅にダウンすることになる。
 そもそも、現在のアメリカ海兵隊は、自らが生み出した「MAGTF」(マグタフ)という作戦組織構造を最大の特徴としている。このMAGTFの原理を理解しなければアメリカ海兵隊を理解することは不可能と言える。
 しかし、海兵隊幹部たちが口癖のように「MAGTFはアメリカ政府や政治家、それに他の軍種でも理解されにくい独特の仕組みであるため、日本で理解されていなくても仕方がない」と指摘しているように、日本では理解されているとは言いがたい。
 MAGTFというのは "Marine Air-Ground Task Force" の略称で、「海兵空地任務部隊」などと訳されている。これは、アメリカ海兵隊があらゆる作戦任務に従事する際に「司令部部隊」「陸上戦闘部隊」「航空戦闘部隊」「兵站戦闘部隊」の4部門から構成される作戦部隊によって出動するという原則である。
 最も小さい海兵隊作戦部隊は「特殊目的海兵空陸任務部隊」(SP-MAGTF)と呼ばれており、他国軍隊との合同訓練や比較的小規模な人道支援災害救援活動などに派遣される。
 次に規模が小さい作戦部隊は「海兵遠征部隊」(MEU)と呼ばれており、最大でも2000名規模の部隊である。アメリカが軍事紛争に介入するときの先鋒として派遣されたり、人道支援災害救援活動に派遣されたりするほとんどの海兵隊部隊がMEUである。東日本大震災の時、東南アジアから駆けつけた救援部隊もこのMEUであった。
 最大15000名規模の比較的大きな作戦部隊は「海兵遠征旅団」(MEB)と呼ばれており、最も大規模な作戦部隊が「海兵遠征軍」(MEF)で最大編成9万名の大規模作戦部隊ある。この規模になるとアフガニスタン戦争やイラク戦争といった本格的戦争への出動ということになる。
 これらの、どのような規模の海兵隊作戦部隊であろうとも、司令部部隊、陸上戦闘部隊、航空戦闘部隊、兵站戦闘部隊の4部門から構成されているのが、MAGTFの特徴である。

 そして、沖縄を本拠地に常設されている第3海兵遠征軍(III-MEF)の航空戦闘部隊が第1海兵航空団なのである。したがって、辺野古移設によって第3海兵遠征軍の航空戦闘部隊は完全に分断されてしまうことになるのだ。MAGTF4つのいずれの構成要素を欠いても機能しないのであるから、第1海兵航空団が1000キロメートルも引き離されてしまうことは第3海兵遠征軍にとっては大きな痛手となる。

 また、第3海兵遠征軍のみならず、沖縄を本拠地にしている海兵隊が様々な規模のMAGTF部隊を編成して出動する際には、どのような規模の部隊でも第1海兵航空団から抽出される航空戦闘部隊が構成要素となる。そのため、小規模武力衝突から大規模な戦争まで、あるいは小規模な人道支援活動から大規模災害救援活動まで、沖縄の海兵隊が投入されるあらゆる作戦行動において、航空戦闘部隊が分断されていることが足を引っ張ることは避けられない。

 このように純軍事的に考えると、辺野古移設は海兵隊の最大の武器であるMAGTFを弱体化させることになるのだ。そして、海兵隊が沖縄を本拠地にしていることが日本にとって抑止力となっているのならば、その抑止力の戦闘能力を低下させる作業が辺野古移設なのである。
シンボリックな抑止力は残存する

 ここで確認しておかねばならないことは、アメリカ海兵隊・第3海兵遠征軍が沖縄を本拠地にしていることは、日本にとって抑止力となっているのか? そして、そうならばなぜ? という基本中の基本の問題である。
 二者択一的に言うならば「抑止力になっている」と言えよう。ただしその理由は、日本でよく言われているように「万一、中国の人民解放軍が尖閣諸島を占領してしまっても、沖縄に海兵隊が陣取っていれば海兵隊が自衛隊の尖閣奪還作戦に参加することになるため、中国はそのような事態を警戒して尖閣侵攻を差し控えるに違いない」といったものではない。
そもそも、「尖閣諸島占領」などという戦略的に稚拙な軍事作戦を人民解放軍が単発で発動する可能性はゼロに近い。また、そのような事態に立ち至った場合には、中国は間違いなく、米海軍などで「短期激烈戦争」と名付けられた軍事行動(大量の巡航ミサイルと弾道ミサイルを打ち込み、一挙に日本を降伏に追い込む。本コラム2015326日付図参照)に打って出るであろう。
さらに、なんらかの理由で人民解放軍に尖閣諸島が占領されてしまった場合でも、水陸両用作戦のエキスパートである海兵隊は、尖閣上陸奪還などという未熟で無謀な作戦は決して実施しない。
 このように、「アメリカ海兵隊の強力な打撃力が活躍するであろうから抑止力となっているのではない」と考えることができる。そうではなく、海兵隊が沖縄を本拠地にしているという状態そのものが抑止力になっているのである。なぜならば、海兵隊が陣取っている沖縄周辺に手を出す者は何者であっても、すなわち海兵隊の敵と見なされるからである。そして、アメリカ軍の先鋒部隊である海兵隊の敵はすなわちアメリカの敵となるのである。
 とするならば、軍事的に考えると、確かに海兵隊の辺野古移設は海兵隊の戦力低下を意味し、決して好ましくはない。しかし、戦力が弱体化しても、海兵隊が沖縄に存在する限り、上記のようなシンボリックな意味での抑止効果は発揮しているのである。
 もちろん日本にとってさらに重要なのは、低下しつつある沖縄の海兵隊戦力を補完してあまりある程度の自主防衛能力を強化させることである。いつまでも、アメリカ海兵隊のシンボリックな抑止力にすがりついていては、やがては取り返しのつかない状態に立ち至るかもしれない。
 最後にアメリカ海兵隊の格言を紹介したい。「永遠の味方も、永遠の敵も、共に存在しない」。
北村 淳氏
 戦争平和社会学者。東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。警視庁公安部勤務後、平成元年に北米に渡る。ハワイ大学ならびにブリティッシュ・コロンビア大学で助手・講師等を務め、戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学でPh.D.(政治社会学博士)取得。専攻は軍事社会学・海軍戦略論・国家論。米シンクタンクで海軍アドバイザーなどを務める。現在安全保障戦略コンサルタントとしてシアトル在住。日本語著書に『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房)、『米軍の見た自衛隊の実力』(宝島社)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)、『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)、『尖閣を守れない自衛隊』(宝島社)、『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』(講談社)等がある。

米海軍分析センター上席研究員マイケル・マクデビット氏

新日米ガイドラインを豪州や東南アジアも活用せよ

米国のリバランスへの貢献

 岡崎研究所 20150602http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5011

アジア専門家のマルコム・クックが、豪戦略政策研究所(ASPI)のブログ「Strategist」に429日付で寄稿した論説の中で、新日米ガイドラインを評価するとともに、豪州や東南アジアもこれを活用する形で、より積極的な対米協力の素地を作り、米国のリバランスに貢献すべきだ、と述べています。
 すなわち、米国のリバランスは、東アジアに対する米国の前方展開を強化するという一方的なコミットメントだけではなく、同盟国や拡大する安全保障パートナーが米国に対する更なる支援を提供するという相互的な関係によって成り立つ。
 北東アジアにおいて日本は、新ガイドラインにあるように、自国の防衛以外にも、第三国における危機や弾道ミサイル防衛、地域における能力構築などで貢献する機会を掴んだ。
 東南アジアを広く捉えれば、豪州も、米海兵隊のダーウィンへの展開やスターリング海軍基地へのアクセス拡大といった形で、米国が地域安全保障に果たす役割を手助けする機会を得ている。また、シンガポールは米海軍のLCS(沿海域戦闘艦)の母港を提供しているし、フィリピンは昨年、米比拡大防衛協力協定(EDCA)を締結している。
 ただ、新ガイドラインでは、尖閣諸島が日米安保条約の適用対象であることが改めて明記されたが、フィリピンが領有権を主張している南シナ海の島嶼においては、米国のコミットメントを示すものはない。この点、米国の北東アジアに対するコミットメントは、東南アジアのそれよりも、遥かに深いと言える。
 また、今次ガイドラインで定められた同盟調整メカニズムや、民間空港・港湾の共同調査、弾道ミサイル防衛向上のための協力は、日米同盟をより深く、広範なものにしている。他方、2014年に行われたAUSMIN(米豪「2+2」)では、豪州の地域における弾道ミサイル防衛に対する潜在的協力オプションを検討するための作業部会を設置するにとどまっている。これは、日米同盟が米豪同盟よりもいかに深化しているかを反映するものである。
 こうした動きの背景には、「日本の軍」の拡大の他、中国や北朝鮮と隣接するという地理的状況も影響していようが、米軍の戦力配備は明らかに北東アジアに傾斜しており、今後もこの傾向は続くであろう。
 フィリピンについて言えば、2016年の選挙次第では、中国との領土紛争に関する同国の政策が一変する可能性があり、一部では最高裁がEDCAを無効とする判決を下すのではないかと懸念されている。そうなれば、フィリピンにおけるリバランスは未完に終わる。
新ガイドラインは、3カ国や多国間協力の重要性を強調している。豪州はこの強力なガイドラインを活用すべく、日本との関係や機能的な3カ国協力の強化を続け、地域の弾道ミサイル防衛に対するコミットメントをより明確にすべきである。これは、東南アジアに対するリバランスを強化することにも資するはずである、と論じています。
出典:Malcolm Cook,US-Japan defence guidelines: pushing the rebalance’(ASPI Strategist, April 29, 2015
http://www.aspistrategist.org.au/us-japan-defence-guidelines-pushing-the-rebalance/
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 筆者は、シンガポール東南アジア研究所上席研究員、豪ロウィー研究所客員研究員を務めている、アジア専門家です。この論説では、米国のアジアへのリバランスは、アジアへの米国のコミットメントを意味するだけではなく、同盟国や増加する安全保障パートナーに、米国に対するさらなる支援をする機会を提供するものであり、新日米ガイドラインは、日本がその機会を捉え、日本の防衛のみならず、地域の安全保障の支援を強化しようとするものである、として新ガイドラインを高く評価しています。
 論説は、米国の北東アジアに対するコミットメントが、東南アジアに対するものより遥かに深く、日米同盟は米豪同盟より深化している点を指摘し、豪州は、3カ国や多国間協力の重要性を指摘している新ガイドラインを活用し、東南アジアに対するリバランスの強化に努めるべきである、と述べています。豪州のこのような積極姿勢は、米国、そして日本の歓迎すべきところであり、評価されるべきでしょう。
 日米同盟が米豪同盟より深化しているというのは、確かに事実ですが、豪州は、9.11の同時多発テロ事件を受け、米豪同盟に基づき集団的自衛権を発動し、200110月以降、米軍の作戦支援のため、官邸、空中給油機、戦闘機、陸軍特殊部隊などを派遣しています。また、イラク戦争に際しては陸海空合わせて約2000人の兵力を派遣しています。これらは日本以上の軍事的貢献であり、歴史的には豪州が米豪同盟に基づき、米国を支援してきたことを忘れるべきではありません。
 ただ、豪州には中国との経済関係を重視すべきであるとの見解もあること、また、豪州では二大政党間での政権交代が比較的頻繁に行われ、政権によって米豪同盟への見方が変わる可能性が常にあることは留意すべきです。
 論説は、フィリピンの対米協力には不確定要素があることを指摘しています。フィリピンは東南アジアの安全保障環境で重要な国であり、今後のフィリピンの政治、司法の動きを注視する必要があります。
米の新海洋戦略に対する中国の反応

岡崎研究所 20150514日(Thuhttp://wedge.ismedia.jp/articles/-/4957
 ハドソン研究所米海軍力センターのマグラス副所長が、National Interest誌ウェブサイトに410日付で掲載された論説にて、3月に公表された米の新海洋戦略について、今回報告は中国を名指ししており、中国は強い反応を示すかもしれず、米中の海軍力競争は今や双方が公然と認める競争となっている、と論評しています。
 すなわち、2015年海洋戦略は、具体性に富み、また、作戦志向的になっていることで、専門家からは前向きの評価を受けている。他方で、中国の反応はどうだろうか。
 前回の2007年海洋戦略は中国を名指しすることを避けた。当時のマレン海軍作戦部長は、行間を読めば中国もわかるだろうと名指しをしないことに決めた。マレンの予想は正しかった。米国がその世界防衛システムを一層強化し世界での主導者としての役割を維持していくことを婉曲的ながら鮮明にしたことを、中国関係者は決して好ましいものとは受け止めなかった。
 今回の海洋戦略には、そのような婉曲さは全くない。新海洋戦略は、海軍、海兵隊、沿岸警備隊が共同行動を行うことができるように、アクセスを確保し維持するために必要な作戦能力の戦略に焦点を置いている。アクセス確保の戦略は、中国が(それほどではないがイランも)取っている接近阻止・領域拒否戦略(A2/AD)に対抗するためのものである。中国は米国の圧倒的に有利な投射能力に対抗するため、海洋の自由な使用を拒否する必要があることを認識している。前回と違って、今回報告は中国を名指ししている。
 また、新戦略は、米国の強みである同盟国等のネットワークの重要性を強調している。豪、日、NZ、比、韓国、タイとの協力強化とともに、インド等との協力関係の推進を強調している。これを見て、中国は包囲網の構築を感じるだろう。2007年戦略でさえ中国封じ込めの文書だと考える中国関係者もいたので、今回の戦略には一層強い反応があろう。
 中国は、中国包囲網が作られているとして、海軍の増強・近代化や介入対抗戦略の強化を正当化しようとするだろう。更に、中国は南西アジアやアフリカばかりでなく米本土に近い南米やカリブ海地域に中国の基地などのネットワークを拡大することを試みるかもしれない。また、米戦略の中心的な狙いが中国にあるとして、中国関係者は、大国としての自尊心を一層強固にするかもしれない。最後に、中国はこれまで静かに海軍力強化を推進していたかもしれぬが、そういう時代は終わった。これから米中の競争が始まる。今や双方がそれを公然と認めている、と論じています。
出典:Bryan McGrath,America's New Maritime Strategy: How Will China Respond?’(National Interest, April 10, 2015
http://www.nationalinterest.org/blog/americas-new-maritime-strategy-how-will-china-respond-12592
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 2015年海洋戦略は、マグラスの言う通り、(1)中国の介入拒否戦略(A2AD)に対抗するための米海軍力の強化の必要性と、(2)日本等同盟国・友邦との協力ネットワークの推進の重要性の二点を強調しています。今回の戦略で中国が名指しされたことには大きな意味があり、同時に米が日本等同盟国との協力をいかに重要視しているかを示しています。
 マグラスは、今後あり得べき中国の反応につき四点を指摘していますが、その中で最も目を引くのは、中国が今後南米やカリブ海地域で基地などのネットワークを構築してくるのではないかとの指摘です。これは、冷戦時代のソ連の動きを想起させます。中国は、20147月の習近平主席の中南米訪問や今年1月の中国・ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体フォーラム(CELAC)の北京開催など中南米との関係強化を図っているほか、中南米諸国との軍事交流も活発に進めています。
 マグラスが言うように米中海軍競争の公然化により、中国は海軍力増強の一層の口実を得ることになるかもしれません。しかし、A2AD戦略の強化や沖縄の海峡を通じる太平洋進出の常態化等に見られるように、中国は既に海軍力強化に乗り出しており、今回報告が中国の政策に特段の影響を与えるというより、むしろ、中国は米国の決意を再認識したのではないでしょうか。その意味で、今回報告は、明示的な戦略宣言の効果により、米の対中抑止力と信頼性の向上に貢献したとみるべきしょう。その点、今回報告は前向きに評価すべきと思われます。
 今回報告では、「インド・アジア・太平洋地域Indo-Asia-Pacific」という新しい地域概念を打ち出し、この地域での中国の海軍力拡大に言及、これは「機会」でもある(ソマリア沖の海賊作戦参加など)が、「挑戦」でもある(中国の威嚇的行動、透明性の欠如、A2AD推進など)としています。中国を念頭に置けば、インド・アジア・太平洋という概念は合理的でしょう。
 また、報告は、A2AD対抗能力について、抑止力、海域支配、投射能力、海洋安全保障に加え、今回、新たに「全域アクセスAll Domain Access」という考え方を提示し、これは陸海空軍、宇宙、サイバー空間等を含め米軍の自由な行動を確保するためのものと説明しています。宇宙、サイバーについては、今般合意された日米新ガイドラインでも強調されています。こうした面での日米の協力の進展が加速することが期待されます。

【関連リンク】
変貌するアメリカ海兵隊&海軍のアジア太平洋戦略

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