2015年5月10日日曜日

アメリカ軍による「世界のリーダー」としての役割 ~アジア太平洋リバランス戦略~

カーター新国防長官に対するアジア政策「3つの提言」
20150331日(Tue)  岡崎研究所 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4838


 新米国安全保障センター(CNAS)のパトリック・クローニン上級顧問、バン・ジャクソン同客員研究員及びアレキサンダー・サリバン同研究員は、225日付のリアル・クリア・ディフェンスに、「カーター新国防長官への助言:リバランスを現実のものに」と題する共同記事を寄稿し、(1)北朝鮮が残存性のある核能力を持つ可能性を踏まえ、抑止力と即応体制を構築すべきである、(2)同盟国・友邦国の軍事能力向上を推進すべきである、(3)中国との摩擦低減に努力すべきであるとの3つの提言をしています。
 すなわち、新国防長官は、「アジア太平洋へのリバランス」を疑う余地のないものにすべきだ。平和で繁栄し、法に基づくアジア太平洋地域秩序を築くために、米国はその影響力を強化すべきである。
 第1に、抑止力と即応体制を強化すること。北朝鮮はいずれ核能力を保有する方向にある。そうなれば、戦略上の問題が起きる。北朝鮮は、核戦争のリスクなしに、挑発行動や軍事行動をとれるようになる。北朝鮮の核能力の進展は止められない。カーター長官は、半島での限定的戦争への備えをする必要がある。外交的解決は可能かもしれないが、それが失敗すれば同盟国は次の事態に対応しなければならない。
 第2は、同盟国、友邦国の軍事力強化を推進すること。アジア諸国は軍事力の近代化を図っているが、特定の武器の分野で競争が起きるリスクがある。また、誤解や新しい技術によって、突発的なエスカレーションが起きる可能性もある。新国防長官は、潜在的な敵対国に対処する同盟国側の能力を構築することを最優先課題として、対同盟国・友邦国協力を進めるべきである。これらの国が、攻撃的ではなく、防御的な方向に向かうようにすべきである。
 日本は、向こう2年の間に、限定的ではあるが集団的自衛権の行使に参加するようになるだろう。カーター長官は日本と引き続き緊密に協力していく必要がある。米国は、日本の一層大きな役割が如何に有益かを周辺国に説明するとともに、日本の新たな貢献を日米同盟の枠内のものとすることによって、これらの国の懸念を早期に払しょくすることを率先して行うべきである。
 第3に、中国との摩擦を低減すること。米国は中国の台頭を歓迎すべきだが、中国の長期的な意図や海洋での行動については確信が持てずにいる。同盟国・友邦国の強いネットワークを誇示することや地域的な透明性を高めることによって、中国は強圧行動が取り難くなる。
 更に、2つの政策によって紛争の種を除去することができる。第1は、軍同士の交流を制度化していくことである。第2に、係争海域での関係国の行動のロードマップを作成し、係争海域の透明性を高めることである。
新国防長官は、これらの考えを、議会に提出する海洋安全保障・地域戦略報告書に含めるべきである。国防長官にとって、これからの2年は、短期的な危機への対応だけではなく、より長期的政策を形成する極めて重要な機会となる、と述べています。
出典:Patrick Cronin, Van Jackson & Alexander Sullivan Note to Ash Carter: Make the Rebalance a Reality (Real Clear Defense; February 25, 2015)
http://www.realcleardefense.com/articles/2015/02/25/note_to_ash_carter_make_the_rebalance_a_reality_107665.html
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 この共同記事の第1の提言は、北朝鮮がゆくゆくは報復能力を持った核戦力を保有する可能性があるとして、「限定戦争シナリオ」を作って、対北朝鮮抑止力と即応体制を確立すべきだとします。つまり、北朝鮮の核開発進展と時間の経過により、北朝鮮の核と「同居」しなければならない事態に向かって動いていることを想定しています。軍事専門家としては当然の想定だと思われます。なお、著者のひとりであるバン・ジャクソンは、225日、書面による議会証言で、北朝鮮は今や「事実上の核保有国」であると述べたと報じられています。
 第2の提言では、同盟国(日豪韓比)や友邦国(インドネシア、インド等)の軍事力を高めるようにすべきだとします。著者は、同盟国等の軍事力整備に当たっては、相互運用性の確保が必要との趣旨を述べるとともに、軍事力増大の過程で高まる誤解や計算間違いによる衝突を回避すべきとします。また、同盟国は海底機雷設置等の防御的な能力を志向すべきとしますが、攻撃能力は米国が担当するということでしょう。この点は、注目されます。
 更に、日本の役割に言及し、日本と引き続き緊密に連携、協力していくべきだとします。日本にとっては歓迎すべき提言で、新長官との協力を推進していくべきです。また、米国は、日本とアジアの関係国との防衛協力を含め、地域防衛協力を支援、リードしていくべきとします。従来のハブ・アンド・スポークという二国間の網にとどまらず、同盟国・友邦国の間での協力(日豪、日印など)を支持していくとの考え方は、先月発表の米国家安全保障戦略でも明示的に書かれているところです。


 第3の提言は、中国に関係します。中国の台頭は歓迎するが、中国の強圧行動は懸念されると述べた上で、中国との摩擦の低減に努力すべきとします。より具体的には、ミリタリー同志のエンゲージメントの強化と透明性の推進という2つのことに新国防長官は努めるべきだと言います。穏当な考え方です。国と国の関係は、如何に利害が対立しても、エンゲージしないことには、何も始まりませんし、関係の管理もできません。その意味で、日中間で海事メカニズムのための話し合いが進み始めていることは良いことです。「エンゲージメント」と「透明性」は、今の時代の国際関係の基本でもあります。
アンジェラ在日米軍司令官
アメリカ海軍戦士の歌
米海軍再建の決意 ~海軍力を構成する4つの要素~
20150417日(Fri)  http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4890


316日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙で、メイバス米海軍長官が、数は重要であるので、米海軍の艦艇の増強を進めて行くと述べています。
 すなわち、米海軍・海兵隊の世界展開を可能にするのは艦艇の数である。米の保有する艦艇の数を単純に他国のそれと比較するのは間違いである。なぜなら、米は、世界のリーダーとして、必要とされるところに迅速に展開する任務を持っているからだ。
(画像出典:https://www.google.co.jp/search?q=%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E6%B5%B7%E8%BB%8D%E7%94%BB%E5%83%8F&biw)
 対ISIS作戦の最初の54日間、米の作戦は空母ジョージ・ブッシュのF/A18ホーネットのみによって実施された。西部アフリカのエボラ熱作戦では、大統領命令が出されたその日に、V22オスプレイで海兵隊を現場に展開した。2011年の東日本大震災に際しては、トモダチ作戦を実施し、16を超える艦船、130の航空機、12千人の要員が340トンの物資を運んだ。第二次大戦後、米海軍は公海を守ることによって、世界の海上貿易の90%と海底ケーブルによるデータ通信の95%を可能にした。
しかし、米海軍の世界におけるプレゼンスを維持していくためには、艦船建造の投資を継続して行く必要がある。そのために、オバマ大統領は2016年国防予算で1610億ドルを要求している。厳しい財政事情のため、海軍は経費削減に努めるが、米国のプレゼンスを犠牲にするわけにはいかない。艦船の削減は米の安全保障と世界経済を危険にさらす。
画像出典:http://tatsuki777.hatenablog.com/entry/20130227/1361973629
 自分の海軍長官就任の2009年までは、米海軍の艦船量は減少していた。2001年の同時多発テロの時点で、米海軍は316の艦船を保有していたが、2009年には278隻まで減少した。長官就任前の5年間に発注された艦船はたったの27隻だった。自分の長官就任後の5年間には、70隻の建造を契約し、米国は2020年までに海軍艦船を300隻超まで増強する計画である。
 前方展開を強化するため、米国は、同盟国だけでなく、世界中の有志国とパートナーシップを推進している。パートナーシップは、米国の世界におけるプレゼンスを維持するとともに、相手国も国際安全保障の責任の一端を担うという意味で相乗効果を発揮する、と述べています。
出典:Ray MabusFirmly Committed to Growing the U.S. Fleet’(Wall Street Journal, March 16, 2015http://www.wsj.com/articles/ray-mabus-firmly-committed-to-growing-the-u-s-fleet-1426548142

 米国の関係文書によると、海軍力は、(1)人員、(2)艦船数、(3)動力(燃料・エネルギー)、(4)パートナーシップの4要素から成るとされています。上記論説を読むと、米国が海軍艦船の増強を図っていることが良く分かります。2月にオバマ大統領が議会に提出した国防予算は、前年比8%の増加で、総額5853億ドルに上ります。増額要求は2年振りとなっています。米海軍予算には、原子力潜水艦建造や横須賀配備の空母ジョージ・ワシントンの改修等も含まれています。今後、米議会での予算協議が焦点になります。
 米国の海軍力強化は、2020年までに海軍力の60%を太平洋に振り向けるとの既存の方針と相俟って、地域の安全保障の観点から、歓迎すべきことです。
 メイバスが、米国は世界のリーダーとして特別の役割があるので、米国の海軍力と他国の海軍力を単純に比較するのは間違っていると述べ、単純比較の議論をする一部政治家や専門家に反論していることも、興味深いです。
 なお、メイバスは、1988-92年ミシシッピー州知事、1994-96年駐サウジアラビア大使を歴任し、2009年から海軍長官に就いています。2008年の米大統領選挙では、オバマを支援しました。
アメリカ海軍第七艦隊世界最強艦隊の全貌

中国海軍に追い込まれて戦略転換を図るアメ

リカ海軍


防御重視から攻撃型へ、自衛隊も追随か?


インド洋上の島国、モルジブの首都マレの海水を淡水に浄化する施設で、124日午後(現地時間)、火災が発生し、マレ市民への飲料水供給が危険に曝されるおそれが生じた。
 そこに支援の手を差し延べたのが中国である。中国は近年、インド洋の数地点に軍事拠点を確保する一環としてモルジブとの親密な関係構築を推進している。モルジブ政府の要請を受けた中国政府は、即座に救援資金と飲料水の緊急輸送を開始した。126日、15万のマレ市民を救援するため、中国政府は2機の民間輸送機で20トンの飲料水をマレに空輸した。
 それに引き続いて、海賊対処のためにインド洋に出動中の中国海軍艦艇から、海洋救難艦がマレ港を目指して急行中である。960トンの飲料水と海水浄化装置を積載したこの中国軍艦は8日未明にはマレ港に到着する。さらに、中国空軍機が万一の事態にはモルジブに緊急出動できる態勢をとり、通過諸国との交渉も開始した(以上は127日時点の情報)。

目に見えて凋落してきたアメリカの軍事的影響力

 以前ならば、モルジブに緊急救援機を飛ばし、海軍艦艇を急行させたのはアメリカであったであろう。アメリカはインド洋の絶海に浮かぶイギリス領ディエゴガルシアに軍事拠点を有している。そのディエゴガルシアの北方およそ1300キロメートルのインド洋上に浮かぶ島国モルジブを敵性勢力にコントロールされてしまうことは、かつてのアメリカならば決して見過ごさなかったはずである。
 しかしながら、アメリカ軍はイスラム国への対応やアルカイダに拘束された自国民の救出作戦(失敗に終わった)など、イスラム過激派勢力に対する伝統的な軍事対応に追われている。そのうえ、オバマ政権内部においてもヘーゲル国防長官の更迭と後任人事を巡る駆け引きと問題山積である。まさに、中国海軍戦略への対処どころではなくなっている、というのがアメリカ国防当局の実情である。
その結果、モルジブが中国の手に転がり込む状況がますます強まる事態に対しても、アメリカはなすすべがなかったのだ。中国はインド洋における海軍戦略上の拠点としてモルジブを手に入れようとしている。
 このように、中国軍事力とりわけ海軍力の台頭は、日本はもちろんのことアメリカにとっても「張子の虎」などと言っていられない状況になっている。
 確かに、軍艦や航空機、それにミサイルなどの個々の兵器や装備だけを比較した場合には、アメリカや日本のほうがまだ質的に優れている場合が多い。しかし、東アジアからインド洋にかけての軍事戦略や外交戦略を含めた大局的見地からの軍事的影響力に関しては、以前のようにアメリカが中国を問題なく圧倒しているという状況ではなくなっている。

防御面に重点を置いてきた対中戦略

 このような状況は、とりわけアメリカ軍関係者やシンクタンク研究者たちの間では強い危機感を持って議論されており、対中国戦略の再構築が急がれている。そして、本コラムでもしばしば触れている「対中国接近阻止領域拒否(A2/AD)戦略」の策定や、そのような戦略を実施するための具体的施策や作戦の構築などが盛んに提言され始めるようになっている。
 そのような流れの中で、アメリカ軍当局のみならず日本防衛当局にとっても参考にすべき提言の1つに「質の高い防御に依存しすぎている状況からの転換」というものがある(この種の主張は、少なからぬ戦略家たちが主張しているが、CSBA上席研究員ブライアン・クラーク著“COMMANDING THE SEAS”は詳細にこの種の主張を取り扱っている)。
 中国人民解放軍の戦力に関して、アメリカや日本ではしばしば「数だけ多くても質は低い」とみなされがちであった(実際、数年前までは事実であった)。そして、人民解放軍の侵攻主義的海軍戦略に最前線で対抗するアメリカ海軍は、「質の高いハイテク防御兵器を充実させて、万一中国と一戦交えるような事態に直面したとしても、それらの優秀な防御兵器によって中国侵攻軍が発射してくるミサイルを撃破イージス巡洋艦ならびにイージス駆逐艦に対艦ミサイル迎撃用ミサイル、弾道ミサイル迎撃用ミサイル、長距離巡航ミサイル迎撃用ミサイル、それにCIWS(近接防御火器システム)など高性能の防御用兵器してしまおう」という基本方針によって軍備を整えてきた。すなわち、を搭載して敵の攻撃を阻止しようという防御面に重点を置いた態勢を固めてきたのである。
もちろんアメリカ海軍といえども「攻撃は最大の防御なり」との格言を重視するアメリカ軍である以上、「専守防衛」概念が歪んだ形で広まってしまっている日本と異なって、敵を攻撃するための対地攻撃用長距離巡航ミサイルや対艦ミサイルの攻撃力を軽視しているわけではない。
 しかし、上記のクラーク氏をはじめとする海軍戦略修正論者たちによると、これまでアメリカ海軍は超高性能(すなわち極めて高価な)な各種迎撃システムの開発に努力を傾注しすぎてきたという。実際にアメリカ海軍水上戦闘艦艇に搭載してある各種ミサイルの数は、敵地攻撃用や敵艦攻撃用ミサイルよりも各種迎撃用ミサイルのほうがはるかに多くなっている。したがって、アメリカ海軍(それも原潜ではなく水上戦闘艦艇)の性格は、高性能だが少数の迎撃システムで武装した防御型海軍と見なさざるを得ない。

優秀な迎撃システムがもたらした誤った自信

 確かに、イージス戦闘システム、SM-3ミサイル、SM-6ミサイル、改良型シースパロー、CIWSなどは極めて高性能な迎撃システムであり、敵の各種ミサイルや航空機を撃墜する高度な性能を保有している。「しかし、そのような優秀な迎撃兵器が誤った自信をアメリカ海軍にもたらしてしまっている」とクラーク氏は指摘する。
 なぜならば、決して高性能とは言えないミサイルから最新鋭のミサイルまで多種多様の攻撃用ミサイルを取り揃えている中国やイランが、アメリカ海軍や同盟軍に対して大量の安価な基本的ミサイルで攻撃を敢行してきた場合、「我々は高性能迎撃ミサイルによって迎撃することになり、それら少数の超高額ミサイルは、すぐに中国の大量の低価格ミサイルに対して撃ち尽くされてしまうことになる」からである。
 その結果、例え米海軍イージス駆逐艦に搭載してある迎撃ミサイルが百発百中の精度で中国のミサイルを撃ち落とせるとしても、迎撃ミサイルを全弾撃ち尽くしてしまったイージス艦は、低価格の中国側対艦ミサイルにとっては1000億円の水に浮かぶ物体でしかなくなってしまうのだ。
 まして、昨今の中国人民解放軍が保有する各種攻撃用ミサイルの性能は飛躍的に向上しており、米海軍(や自衛隊)が保有する超高額な迎撃システムによっても、果たして片っ端から撃墜できるといった状況ではなくなっていると考えざるを得ない。

日本にも迫られる「攻撃型海軍」への転換

 クラーク氏をはじめとする海軍戦略修正論者たちは、「もはや少数高性能の迎撃態勢の強化から基本方針を転換して、多数の攻撃兵器で武装して、敵が攻撃してくる機先を制して集中攻撃を実施できる攻撃型海軍へと軌道修正しなければならない」と主張し始めている。
 すなわち、アメリカ海軍の祖先であるイギリス海軍(ロイヤル・ネイビー:かつて世界三大海軍の一角を占めた日本海軍の祖先でもある)の鉄則であった「最良の防御線は敵の海岸線にあり」(敵が出撃する以前に、あるいは軍艦を建造している段階で、敵の本拠地を襲撃して敵艦隊を葬り去ってしまうのが最大の防衛策という考え方)への回帰と言えよう。
もちろん、帆走軍艦時代と違い長射程ミサイルによって戦闘の帰趨が決する現代では、この鉄則の意味合いも近代化しており、「攻撃は最大の防御ではなく唯一の防御である」として、強力な攻撃型海軍への転換を主張する提言も登場している。
 アメリカ海軍は冷戦終結後、とりあえずは太平洋やインド洋では強敵が存在しなかったために、高性能な迎撃システムの開発にこだわり、少数精鋭の迎撃型海軍としての実力を蓄えてきた。しかし、強力な中国海軍の出現によって、攻撃型海軍への転換が迫られる事態に直面している。ということは、アメリカ海軍の分身的存在である海上自衛隊も、その基本的性格の転換が迫られることは避けられない。


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