2015年5月2日土曜日

日本海兵隊論 ~本来の自衛隊のあり方~

平成23311日に発生した東日本大震災において地震発生後すぐに自衛隊とともに現地入りし、仙台空港などインフラ整備、支援物資の搬送、被災者救助に活躍したアメリカ海兵隊の緊急展開能力については、あらためて指摘するまでもないであろう。
 こうした米海兵隊の支援活動の有効性をみて、地震や津波による大規模災害から国民の生命財産を守るという見地から我が国陸上自衛隊の支援活動において「水陸両用部隊」の必要性が求められてくるようになったことは自然な流れといえるであろう。
侵略的な意図からの着上陸水陸両用作戦(併用戦)ではなく、大規模災害にあたって島国である立地から、海から航空輸送により物資運搬、人命救助の有効性、迅速性が広く認識されたことは、東日本大震災において多くの尊い人命が失われてきたことを考えれば、今後我が国が国家的、或いは地域的に備えなければならない必須スキルといえるだろう。
国民あっての国家、住民あっての地域社会である。
自衛隊では平成27年に西部方面普通科連隊を基幹とした「水陸両用団」が編成されることが決まり、平成20年以来「空母」型のヘリコプター専用護衛艦であるひゅうがやいせ、いずもが就航したことは、今後大規模災害の被害への国民の声を反映したものともみることができる。
まずは、東日本大震災前から専門的な見地から海兵隊的自衛隊のあり方を主張されている方々の改編プランを取り上げ、災害支援や島嶼防衛のためのいわば自衛権を行使する「防衛軍」としての自衛隊の「未来予想図」を考えててみたいと思う。

<> 海兵隊編成についての諸論

① 元航空幕僚長 田母神俊雄氏(『田母神国軍~たったこれだけで日本は普通の国になる』 産経新聞出版 2010.10
 我が国には7000近い島があり、そのうち人が住んでいる島が400程で、6500以上の島が無人島として存在することを指摘された上で、海兵隊組織は必要だとされ、「陸上自衛隊の半分を水陸両用軍みたいな形に再編成する方が効率的」とされる。

② 軍事ジャーナリスト 清谷信一氏(『専守防衛~日本を支配する幻想』祥伝社2010.3
・「侵略国の冒険主義に対する強力な抑止力となる」海兵隊を持つこと。
・島嶼防衛、海自の根拠地及び艦艇、臨検などの任務に有用。
・船上での戦闘技術、船舶の構造についての知識、暴徒統制の技術、非致死性武器の保有も必要。
・部隊規模モデルとして英国海兵隊(ロイヤルマリーン)1個旅団約7500名をあげ具体的な装 備をあげる。
・編成モデルとしては、2個普通科連隊(基幹部隊、水陸両用戦訓練実施済みの部隊&艦隊、 根拠地の防御)、砲兵、舟艇運用部隊、施設部隊、特殊部隊で、人数は30007000名ほどで ある。
・装備調達、運用コスト低減の面から陸自の装備転用がのぞましい。
・離島防衛のための装備としてMV-22Bオスプレイ、指揮通信能力、ヘリ運用能力を向上させた 強襲揚陸艦、固定翼機の運用、海自の特別警備隊を転用して特殊部隊を編成すべきとされ  る。

③ 米国海軍テクニカルアドバイザー 北村淳氏(『米軍がみた自衛隊の実力』宝島社2009.5
2006.5の日米安保協議委員会で沖縄の米海兵隊をグアムへ移転させる政治決着があり、それ は軍事的にみて陸上自衛隊は水陸両用戦能力を持ち、海上自衛隊は水陸両用戦隊を保有する という話である。
・我が国の島嶼に上陸する侵攻軍を、海から逆上陸して国民を救出保護すること、侵攻軍を撃 破するために水陸両用軍が必要である。
・大規模自然災害に対して海上自衛隊の水陸両用戦隊を被災地沖合まで急行させ、艦艇を拠点 としてヘリコプター、上陸用舟艇、水陸両用車輛などで救助活動を行うことができる。
・陸自が現在推進中の緊急展開能力と特殊部隊戦能力を全部隊に定着させるために、陸自15万 人の戦力を海兵隊にトランスフォームすべきである、として独自シュミレートに基づく『日 本海兵隊草案』を提示する。
・我が国に対する着上陸侵攻とは、上陸、占領が可能な防備の「手薄な地点」への携行式武器 による武装ヘリの支援をうけることが可能な機動力の高い小規模上陸部隊によるものが考え られ、例として共産中国の水陸両用戦隊による南西諸島、先島諸島への作戦が想定される。
 これらを凌駕する機動性、強力な攻撃力をもつ水陸両用即応部隊が日本海兵隊の抑止力とし て求められる。
・組織そのものを変えるならばアメリカ海兵隊の「MAGTFシステム」の導入は可能であ  る。
・海外遠征は想定外なので、アメリカ海兵隊MEUにあたる小規模部隊を多数編成する。(JMEU)
 日本海兵隊(JMEU)の部隊編成
司令部部隊  200名    計3000
陸上戦闘部隊 2000名   実戦待機部隊 5
輸送戦闘部隊 200名    実戦準備部隊 5
航空戦闘部隊 200名    実戦待機前のメンテナンス中の部隊 5
兵站戦闘部隊 400

JMEU実働部隊20個部隊 兵力66000名(予備要員含む)
実動部隊に組み込まれる前のJMEU10個部隊 兵力39000名(指導要員を含む)
基地部隊要員 兵力35000
JMEU総兵力 140000
JMEU司令部 1500020000
・現在の陸上自衛隊は重装備の「大陸型陸軍」であり、海外に兵力を展開しない限り、我が国には不向きなものである。


<> 陸上自衛隊における防衛戦略

 戦後の我が国をどう対外的な侵略から防衛するか、ということについては、戦後自民党政権下において「基盤的防衛力整備」構想が国家防衛の指針とされてきた。
 すなわち我が国近海、「海上部」において潜水艦隊による主要海峡の封鎖、護衛艦隊の水上打撃力による侵攻軍の撃破がなされ、「沿岸部」において要撃戦闘機や地対空ミサイルによる我が国周辺の制空権の確保がなされた上で、「沿岸部」及び「内陸部」での「水際撃破作戦」である。
 陸上自衛隊においては、こうした3段階の作戦地域において海上、航空各自衛隊との連携、合同作戦を着上陸侵攻対処の基本戦略としてきたといえる。
 2001年の同時多発テロ以来重視されるようになった対テロ作戦や市街地戦闘訓練、またJDRPKOといった国際支援活動、平和維持活動、大災害における人道支援活動についても重要な本来任務ではあるが、主要任務としては、我が国への武力侵攻事態に速やかに対処し排除することにあるといえる。
 具体的にどこの国の侵攻に対して防衛戦略を策定し、態勢をとってきたかについては、自衛隊が発足した当時の冷戦時代においての一番の侵攻脅威としてソビエト連邦の北からの軍事力であることに異論をはさむ方はいないであろう。
 先の北村淳氏の指摘にもあるようにソ連からの着上陸侵攻に備えて北海道の陸自の部隊に戦車や長距離榴弾砲を重点的に配備し、「大陸型軍隊」の体をなしていたわけである。
 そして目的としてはアメリカ軍が来援するまで着上陸を阻止し、上陸されても重火器を主体として持久戦をとることが求められていたから、侵攻してくる敵性国に対して逆に上陸して侵攻軍の拠点となる場所や港湾など交通インフラを制圧するような海兵隊組織をもつことをアメリカから認められなかったのである。
 そもそも陸上自衛隊の全国における配置(9師団、6旅団)については、昭和20年当時のいわゆる「本土決戦体制」(決号作戦)の部隊配置をそのまま受け継いだものである。
 「一億総特攻」といわれたように敵であるアメリカ軍を水際でできるだけ撃破し、上陸したら持久戦において撃破するために、女性も老人も子供も竹槍を構えて戦闘訓練に励んだ時代の部隊配置のままで今日を迎えていることを国民は認識する必要があるだろう。
 冷戦時代が「終り」、北からの脅威が以前のソ連軍ほどではなくなったといわれ、実質仮想敵国が共産中国や北朝鮮とみなされるようになり、平成22年の民主党政権下における新しい防衛大綱において「動的防衛力の整備」という画期的な防衛方針の転換がなされたといっても水際撃破作戦の方針が変わることもなく、陸上自衛隊は「ファイナルゴールキーパー」のままである。
 国民保護法により着上陸侵攻対処に対して自衛隊は民間人を安全に非難させること、生活、経済圏を戦火に巻き込まないように侵攻軍を撃退することになってはいるが、実際に本土に着上陸を許した場合に、一人の犠牲者もなく侵攻軍を撃退することは、日米戦争における水際撃破作戦をとったサイパン島戦や持久戦をとった沖縄戦での結果をみれば不可能であることは明らかである。
 我が国は日米戦争の結果を教訓として、民間人(非戦闘員)や国家運営の中枢である我が国本土が二度と戦禍に巻き込まれないような軍事体制、国家防衛戦略を構築しなければならない。そのためにはまず排他的経済水域の外側に、兵力の展開能力を担保し得るという意味で国防線を画定し、自衛隊最大の兵力であり国家防衛の中核である陸上自衛隊をファイナルゴールキーパーではなく、海上及び航空自衛隊との統合連携の中でより機動的に行動できるようにトランスフォームする必要があると考えられる。
 田母神氏が指摘されるように我が国は、「7000近い島があり、そのうち人が住んでいる島が400程で、6500以上の島が無人島として存在する」島嶼を中心に構成される国家なのである。
 本土(沖縄県も含む)を防衛するためには、こうした本土以外の無人島も含む島嶼への着上陸侵攻対処が重要不可欠な要件となる。そして侵攻に対しての国防線についてはできるだけ国境線から離れた範囲で設定される方が、防衛上都合がいい。
 現状において想定できる国防線としては以下のように考えることができる。

① 北~ カムチャッカ半島と占守島の間の海峡から樺太の北方にかけて
② 西~ 北朝鮮と共産中国の国境線(鴨緑江)
③ 南~ 台湾南側(バシー海峡)
④ 東~ グアム島以南(マリアナ諸島)

あくまで仮想範囲であるが、上記の範囲内において出撃、侵攻対処できるだけの防衛能力を陸海空の統合作戦遂行能力とあわせて保持しておくべきであると考える。
 そしてこうした組織的な能力が、我が国の排他的経済水域範囲内の島嶼群に対して上陸侵攻してくる侵攻軍を撃破し国家主権を防衛することにつながるのである。


<> 我が国における海兵隊のあり方について

 慶応2年(1866年)17日、第一次幕長戦争における周防大島(屋代島)の戦闘において幕府陸軍は、海軍軍艦3隻による艦砲射撃の下、8日に第一陣が大島南岸、安下庄に上陸、11日に大島北部に対して軍艦1隻による艦砲射撃援護の下、幕府陸軍2大隊が上陸を果たし、大島南部に対しても軍艦2隻による艦砲射撃の下、松山藩兵が上陸する。
 長州勢は持ちこたえられず守備兵全員が対岸の周防本土に撤退した。
(引用文献:野口武彦著『幕府歩兵隊~幕末を駆けぬけた兵士集団』中公新書1673
(関連リンク:周防大島地図 周防大島町公式サイト 一般社団法人周防大島観光協会

 19世紀中葉の話であるため攻撃ヘリや固定翼攻撃機などは登場しないが、我が国における近代軍隊による着上陸作戦の初見とみてよいだろう。
 江戸幕府は安政5年(1858年)1月に深川越中島に銃隊調練場ができて本格的な歩兵部隊調練が始まるが、8年後には海上からの援護射撃の下で戦略拠点に着上陸を行うというドクトリンを完成させ作戦として遂行している。
 幕府陸軍は創立当初からイギリス海軍から武器の購入や部隊編成などを学んでいることから、おそらく着上陸作戦についてもイギリス海兵隊(ロイヤルマリーン)からとり入れたものと考えられる。
 注目されるのは周防大島南部への上陸作戦を行った部隊が幕府陸軍ではなく松山藩の兵であることである。これはイギリスから学んだ着上陸作戦のドクトリンを幕府陸軍が他藩に対しても指導していたということであろうか、松山藩が自主的に近代的な戦法を学んだ結果なのか、いずれにしろドクトリンの共有化がはかられている点は興味深い。
 結局この時の着上陸作戦だけみると周防大島を守る長州軍は持ちこたえられずに退却したわけだから作戦としては成功をおさめているといえるが、問題は長州藩がこの時の戦術を目の当たりにして戊辰戦争、明治維新以後、どう新しい軍制のドクトリンとして工夫発展させていったかであるが、現在の陸上自衛隊において島嶼防衛戦における着上陸作戦の訓練がなされるようになっている点からみて、元々幕末に学んだであろう海兵隊ドクトリンが発展して継続されているものと理解したいと思う。
 ただ現在の陸上自衛隊において海兵隊的に着上陸作戦が可能な部隊としては長崎県の西部方面普通科連隊や中国地方の第13旅団があげられるが、複数方面的に侵攻事案が発生した場合、或いは地震や津波による災害支援の必要性が発生した場合、確率としては低いが侵攻事案と災害支援の緊急対処が同時発生した場合を想定すると、現在の「海兵隊的組織」だけでは、地理的にも西日本に偏在していることもあるが、十分即応できるかどうかはなはだ疑問を感じざるを得ない。
 多島国家であり、世界第6位の排他的経済水域を保有する我が国にとっては7000近い島の安全を保障すること、レアメタルや原油、天然ガス、漁業資源といった豊富な海洋権益の防衛は国家の生存に関わる死活問題である。そのための重要ポイントは田母神氏が指摘するように6500以上の無人島を軍事的にどう防衛し活用するかにあるものと考えられる。
 前節において僭越ながら我が国の仮想国防線を設定させていただいたが、国防線の範囲において、侵攻事案、災害人道支援として緊急展開、対処できるだけの部隊能力を担保することが、防衛上特に脆弱かつ広範に分布する島嶼防衛に不可欠な条件であり、海兵隊の編成はそのための一つのオプションにすぎない。
 しかし仮に海兵隊の必要性を我が国の防衛にあてはめるのならば、その編成については、現在の陸上自衛隊の着上陸部隊や清谷氏の主張にみえるような陸自の一部部隊を改編訓練する形ではなく、田母神氏が主張されるように陸自の半分を水陸両用軍として編成する案や北村氏の主張にあるように陸上自衛隊そのものを海兵隊組織に改編し、海上自衛隊に強襲揚陸艦や輸送揚陸艦をもった水陸両用戦隊を編成する案も検討し実現させていくべきであろう。
 既に我が国は島嶼防衛をなおざりにしたがゆえに、北朝鮮からの理不尽な「侵略」を受けたという苦い経験がある。北朝鮮の工作機関による邦人の拉致問題を単なる人権問題だけで片付けることはできない。明らかに国家主権の侵害である。
 この問題を長い間放置し拉致の事実すら否定し続けてきたことなかれ与党政府には怒りと恐ろしさを感じざるを得ないものがあるが、例えば竹島に韓国が軍を駐留する以前に自衛隊のレーダーサイトや通信施設をおいていたら、拉致工作船の接近をある程度抑止できていたのではないだろうか、と考えると切歯扼腕とした思いである。
 北朝鮮に拉致された方々を返さないならば、海兵隊を上陸させてでも奪還するぞ、という意思表示が抑止力となる意味も含めて西の国防線の根拠とする。。
 年々精度が向上しているといわれるがMDシステムにより通常弾頭兵器で核弾頭兵器を抑止する手段を手に入れた後、我が国に必須な条件は海兵隊によるパワープロジェクション能力である。それがいかに国民の生命くらしを守るために重要かは東日本大震災におけるアメリカ海兵隊の支援活動にみる展開能力において明白である。
 気仙沼大島への物資搬送、交通確保のために汎用揚陸艇が活躍したが、こうした能力は海兵隊だから可能であったことである。メディアでは報道されないが、人道支援、災害支援においてもアメリカ海兵隊の実績は評価するに値するものであることを考えると、東日本大震災以降、地震活動期に入った我が国において自然災害という有事に対しても海上から空から展開できる海兵隊能力は必要要素である。
 多方面からの侵攻事案、大規模災害への対処を考えると一部部隊ではなく陸上自衛隊14万の兵力を海兵隊にトランスフォームし、海上自衛隊に陸自の編成に応じた水陸両用戦隊を編成すべきという北村氏の案に賛同するものである。

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